top of page
Study Abroad Report
-留学記-
KU Leuven
渡航者:田城 翼(助教)
留学先:KU Leuven(ベルギー・フラームス=ブラバント州・ルーヴェン)
留学期間:2023年8月~9月
・はじめに
この度、2023年8月から9月の2ヶ月間、ベルギー・ルーヴェンにある大学機関KU LeuvenのDepartment of Rehabilitation Sciences, Research Group for Neurorehabilitationにて、研究留学をする機会を得たため、ここに報告する。まだ、国際共同研究の途上であるが、今後国外で研究をしようとする方に少しでも役に立てば幸甚である。
・留学先での研究活動内容
3D超音波の研究技術を学ぶため、ベルギーへ渡った。KU Leuvenでは、超音波関連の研究が盛んに行われている。3D超音波は、2D超音波と動作追跡システムを同期することで、ヒトの筋の形態を3次元的に捉える評価手法である。昨年2022年、アイルランドのダブリンで行われた学会でその研究内容に報告者は感銘を受け、留学先の教授に本留学を志願した。研究室は、ルーヴェン市内から8km離れたUZ Leuven campus Pellenbergに位置する。メンバーは10名ほどで、それぞれ自身の研究に取り組んでいる。その国籍は、ベルギー、オランダ、ギリシャで、基本的にオランダ語で仕事をしていた。ポスドク、PhD学生、臨床医、助手など、その役職は様々であった。活動内容は、留学先の研究のサポートをしながら研究手法を学び、同時に報告者自身の研究も進めることができた。滞在中、実験室での測定とデータ解析に、ほとんどの時間を費やした。実験の準備、測定方法、対象者への説明、機器の管理方法など、広島でのものとは異なる環境下で、学びの多い時間であった。実験室での測定は、患者1名に対し、2名の検者で実施されていた。小児を対象とした研究をしているため、対象者への指示が通りにくい場面が多く、測定に時間を要していた。ある博士課程の学生は、大学病院で小児患者を研究の対象者としてリクルートしていた。しかし、研究参加への理解が得られなかったり、対象者のスケジュールが合わなかったりと、対象者募集に関しては日本と同じような問題があることもわかった。研究室には2名の助手が所属しており、実験の補助や機器の導入・管理を担当していた。彼らはCo-workerと呼ばれた。見た限りでは、Co-workerは研究室の活動を円滑に進めるためになくてはならない存在であった。
ベルギー滞在中、欧州成人・小児運動分析学会(ESMAC)2023に参加した。場所は、ギリシャの首都アテネであった。留学先の研究室のメンバーのほとんども参加しており、その発表を聞くことができた。実験の内容をスライドに綺麗にまとめ、流暢な英語でディスカッションする姿には、学術活動におけるレベルの高さを実感した。この学会の会期中、浦辺幸夫 教授とご一緒する機会にも恵まれ、海外で研究活動に取り組む意義などについて積もる話ができたことは、私の欧州滞在での貴重な思い出のひとつである。
下腿の筋に対する超音波測定
浦辺幸夫教授と参加したアテネでの学会
・留学先での生活
海外ではハプニングがつきものである。ベルギーへの往路、ウィーン−ブリュッセル間の乗り継ぎでロストバゲージに遭った。近年、COVID-19中の人員削減が影響し、ヨーロッパ間の航空便ではロストバゲージが多発している様子。幸いにも、次便で届けてくれたため、同日に回収することができた。ルーヴェン到着翌日、移動のために黄色い自転車を借りた。2ヶ月間のために25ユーロ(約4,000円)で借りることができた。研修先へは、この自転車で片道30分間かけて通った。安い自転車だったからか、滞在中にチェーンが5回外れた。初回は、指をチェーンオイルで黒く汚しながら約10分かけて修復したが、5回目には約2分で修復できるようになった。3回目には、試行錯誤していた私を見かねた心優しいベルギー人女性が手伝ってくれた。自転車屋で働いていた経験があるとのことで、約30秒で修復したのには驚いた。帰国前には、自転車を無事に返却し、デポジットの70ユーロが返金された。毎日の食事のために、スーパーマーケットで食材を調達した。滞在期間中の為替は1ユーロ158〜160円ほど。外食をすると高くつくため、できるだけ自炊をするように心がけた。昼食には薄切りされたパンにチーズとハムを挟み、ミニトマトを添えたものをよく持って行った。サラダには、ピリッとした辛みが特徴のルッコラをよく食べた。水道水は問題なく飲めた。8月と9月は雨の日が大変少なく、雨に濡れる心配はほとんどなかった。気温は20-30°で、心地よい気候である。休日を利用して、小旅行もした。ベルギーは日本の九州の8割ほどの大きさの国であるが、アントワープやブルージュで、中世の雰囲気を残した美しい建築物を見学できた。小さな国土にも、見どころは沢山あった。
2ヶ月間を共にした黄色い自転車
古都ブルージュの街並み
・留学を振り返って
研究留学では、主に研究に関する経験と異文化に関する経験の2つを得ることができる。研究に関して最も痛感したことは、研究費獲得に対する意識である。研究室の博士課程の学生のほとんどは、自身の研究費を獲得してから進学しており、その研究費を使用しながら、実験をしていた。ベルギーのフランデレン地域(Flanders)に拠点を置く研究財団Research Foundation - Flanders(FWO)からの支援が大多数を占める。また、ベルギーの博士課程は給料が出る。学生とはいえ、若手研究者として働いているといった方が想像しやすい。就労時間も決まっているため、朝8時半〜9時に活動を開始し、17時にはほぼ全員が帰宅していた。ポスドクも1名いた。ポスドクの期間は平均して3年だが、自身の研究費がなければ、大学に属することができないこともあるようだ。約3年の任期のなかで、次の研究先を見つける。テニュアトラック契約にたどり着くまで、綱渡り生活となる。つまり、研究費を獲得できなければ研究者として生きていけない。ベルギーでは、博士課程学生の人数に対するポスドクや教員の採用枠が非常に少なく、学位取得後に80-90%が研究の道から離脱するとの話もある。興味深かったのは、修士課程と博士課程の区別である。わが国では、大学院5年制が主流かもしれないが、ベルギーではそうではない。博士課程で初めて自分の研究プロジェクトをもつ。そういった意味では、日本は早期から自立した研究を行える環境かもしれない。理学療法士に限っては、ベルギーでは修士課程を卒業して初めて国家資格を得る。
現地での生活スタイルや文化についても多くの学びがあった。ベルギー人は親切で優しい。物事に寛容なことも印象的であった。日本とは違った環境下で研究活動をするために、ベルギーでの生活に慣れる必要があった。一番大変だったことは宿探しだった。9月はKU Leuvenの新学期が始まる時期であり、国内外から学生がルーヴェン市内を訪れる。そのため、宿の予約が難しかった。KU Leuvenの宿舎のほとんどは、1年契約のものが多く、数ヶ月の滞在のために貸し出すものはない。大学の提携外の宿舎も予約できない状況であった。期間の半分は大学の2つのゲストハウスを数週間ずつ予約できた。残りの期間は、幸いにもルーヴェンで働く日本人研究者と出会い、部屋を貸して頂いた。これから海外研修を志す先生への助言は「宿探しは3ヶ月以上前から行うこと」である。また、生活関連の準備には、受入研究者ではなく、大学の事務にメールで直接連絡を取ることをお勧めする。
大学ゲストハウスの部屋
意匠の凝らされたKU Leuven大学図書館
・将来の展望
本留学で得た経験を活かし、広島大学で、ベルギーKU Leuvenとの国際共同研究を開始する。留学中に学んだ測定環境と方法を展開し、実験を進める。国際共同研究論文を執筆することが第一の目標となる。
・謝辞
海外での研究活動は若手研究者として、この上ない経験でした。これは周囲の先生のご支援がなければ、実現しないものでした。この度、国外での研究活動を強く奨めて下さった浦辺幸夫 教授に深謝致します。また、本留学に際して、多くのご助言を下さった前田慶明 准教授、小宮 諒 助教に感謝申し上げます。遠隔からサポートして下さった大学院生の皆様もありがとうございました。この経験が研究室の発展の一助となるよう、引き続き努めて参ります。
・コンタクトアドレス
何か質問や興味のある方は、田城までご連絡ください。
e-mail: tsubasatashiro716@hiroshima-u.ac.jp
bottom of page